中小企業がマーケティングに失敗する10の理由(その4)

マーケティングに成功するための4つのキーワード

3.カジュアルな関係構築

では、顧客にとっての価値「顧客価値」をはじめとする顧客のこと知るにはどうすればいいのでしょうか?
これについても「普段から顧客とコミュニケーションを取って話を聞いているのになぜ顧客価値を把握できていないのか」と疑問に思われる方もいるかもしれません。

では、そもそも仕事上の「顧客とのコミュニケーション」とはどのようなものでしょうか?
恐らくほとんどの方が営業活動の一環として顧客とコミュニケーションを図っていると思われます。
なぜ、営業活動としてのコミュニケーションでは顧客価値を把握しにくいのか。
それは、当然ながら営業活動が商品・サービスを売るための活動だからであり、売ることを念頭においたコミュニケーションだとどうしても一方的になりがちだからです。

これは、冒頭で挙げた「マーケティングで失敗する理由」の一番目「セールスとマーケティングを混同している」ことによって起こっている問題であり、顧客価値を知るためのコミュニケーションの課題です。
つまり、セールスとマーケティングはまったく別の活動であり、マーケティングはセールスの前に行われる活動です。
これを混同している企業はセールスや広告を含めた営業活動全般がマーケティングだと考えていますが、これは明らかな間違いで、そのままだと前述の通り最悪の場合破綻してしまう可能性もあります。

マーケティングは顧客のことを知り、顧客価値を理解することであり、それを手に入れることができれば顧客自らがその価値を求めてやって来る、セールスを不要にするのがマーケティングの目的だとドラッカーも述べています。
セールス・売ることが目的の営業活動とは別の活動、つまりセールスや営業を抜きにしたコミュニケーションを図ることがマーケティングには必要なのです。
そしてそれを可能にするのが「カジュアルな関係構築」にあります。

カジュアルというのはビジネスの対局であり、カジュアルな関係とは簡単に言えば「仕事を抜きにした関係」あるいは友だち関係に近いものです。
つまり「カジュアルな関係構築」とは仕事や営業あるいは採用といった相手にとっての「心理的ハードル」をなくし、互いに本音が出せる「場」をつくるということです。
顧客価値は顧客の潜在意識にあり、そこから引き出すには(完全に引き出せなくても)本音に近いコミュニケーションが必要です。

実はドラッカーも『マネジメント』の中で組織を円滑に動かす上でのコミュニケーションについて言及しています。
その中でドラッカーは「目標管理(共有)によって経験を共有(共感)することで、互いの知覚の違い(ミスマッチ)が明らかになり、コミュニケーションは成立する」と述べています。
顧客であれば「なりたい姿」や「仕事上で成し遂げたいと考えていること」など相手の目標を共有できれば互いのミスマッチ、つまり「自称強み」ではなく「顧客にとっての価値」がわかるようになりコミュニケーションが円滑になるということです。
顧客の目標を共有することが顧客価値を知る手段だということですから、企業はそれぞれの顧客に応じたカジュアルでオープンなコミュニケーションによる関係構築、つまり「場づくり」のアイデアをいくつか考えることが必要なのです。

4.疫学的アプローチ

疫学とは病気の原因や根拠、背景を見つける医学の研究方法の一つです。
近年では新型コロナウイルスが発生した際に原因や感染経路の究明に用いられました。
この疫学がマーケティングに必要な理由は、マーケティングという「取り組み」がほぼ疫学と同じだからです。
疫学の目的は病気の原因究明ですが、マーケティングの目的も顧客の「買う理由」の究明です。
そして疫学のポイントは事実調査から客観的な仮説を立て、それを確認するための実験をする、ということを繰り返して原因を絞り込んでいくというものです。

先ほどの顧客価値を見つけるための「カジュアルな関係構築(場づくり)」こそが疫学における「実験」にあたります。
セールスとマーケティングを混同していると、この実験による「買う理由=顧客価値」の究明をしないで、とにかく「決まった相手」に売り込むことだけを行います。
この「決まった相手」というのも主観的な「思い込み」によって定めたものですから、売ることを目的とした取り組みは、売れても売れなくても足下の数字のためだけの「価値の低い」ものになってしまうのです。
「売る」目的だけの取り組みでも、売れれば利益が出るから良いと考える方もいるかもしれません。

しかし「なぜ自社から買ってくれるのか」という理由(顧客価値)がわからなければ、再現性のないいわば「まぐれ当たり」であって「誰もが売れる仕組み」になりませんから、その時に得た利益分の価値しかありません。
言い方は悪いですがいわば病気にかかっている人、つまり売れないで悩んでいる人をなくすことも経営者の仕事です。
これまでのやり方に固執して「売る」ことだけを目的にした取り組みではなく、疫学と同じようなアプローチで様々なアイデア・方法を試す中で「買う理由(顧客価値)」を見つける取り組みにしていくべきです。