中小企業がマーケティングに失敗する10の理由(その2)

「やり方」ではなく「あり方」を決める

「マーケティングに失敗する10の理由」の中には、一見すると何が問題なのかがわかりにくいものがあります。
「2.成功している企業と同じことをしようとする」はよくあることで、例えばベンチマークしている成功企業の「やり方」を自社に取り込んでいるという会社はありますし、問題ないように思えます。
でも、成功企業が成功できたのは「やり方」を見つける前に相当の時間をかけて自社の顧客や社員さんに対する「あり方」を変えることができたからで、今見えている「やり方」はその変革の結果生み出されたものです。
つまり、成功企業の「あり方」を含めて同じことをするのであれば良いですが、企業によって異なる顧客に対して「やり方」だけを取り込んでも上手くいかないということです。
これは、「失敗する理由」の5.と6.にもつながっています。

「9.他社とのコラボレーションが苦手」も特にマーケティングに関係ないように思うかもしれません。
たまに中小企業同士のコラボレーションを見ますが、大抵の場合はそれぞれの企業が自社商品・サービスを売る上で「他にはない特徴をつけるため」、もしくはそれぞれの企業にとって有利(Win-Winだから)というのがほとんどで、コラボレーションが上手くいった、成功したというのは聞いたことはありません。
そもそもなぜ他社とのコラボレーションをするのかと言うと、それは自社だけでは顧客の問題や困りごとが解決できない場合があるからで、それぞれの企業の商品・サービスを売れる、売りやすくするためではありません。
こう言うと「自社の事業領域外に手を出すのか」と思われるかもしれませんが、領域外の問題は他社の力を借りるわけですから「事業領域を広げる」のではなく、事業領域外の問題にも関心を持つ、つまり顧客の問題や困りごとを「より幅広く捉える」ということです。
顧客の問題や困りごと、つまりニーズというのは実は複雑で、その根本の原因を把握した上でのものでないと「満足」には至りません。
顧客満足のためには自社が提供できるものだけに限定せず、「広範なニーズ」を捉えて考える必要があるのです。

「他社とのコラボレーションが苦手」というのは、自社が提供できる商品・サービスで解決できる問題しか頭にないことから、「顧客が本当に求めているもの」に考えが及ばず、取り組もうとしていないことを意味しています。
マーケティングで成功するためには、自社のことよりも顧客のことを考えて、そのためには「他社とのコラボレーションによる解決」も考えられる柔軟性が必要なのです。

「失敗する10の理由」はマーケティングに対するこれまでの自社を中心に「売る」ことを目的としたマインドセットです。
これをそれぞれ新しいマインドセットに変えることで、それぞれのマーケティングが成功に近づくことになります。(例会資料を参照)
ここからは、新しいマインドセットを獲得するために中小企業が取り組むべきことを4つのキーワードに分けて説明していきます。

マーケティングに成功するための4つのキーワード

1.マーケティング思考

これまで中小企業の多くは「売る」ことを中心に考え、「売る」ことが経営の中心でした。
こう書くと「いや、顧客のことも考えているし、顧客像をイメージして仕事をしている」と言われるかもしれません。
実はそこに致命的な欠陥があり、その考えに欠落しているものこそ「マーケティング思考」なのです。
組織経営や管理の大家であり、『マネジメント』の著者でるピーター・ドラッカーは著書の中で「企業の目的」について、それは「顧客の創造」でしかないと明言しています。
そして、すべての企業が顧客を創造するために持っている機能は「マーケティング」と「イノベーション」だけだと述べています。

また、利益は企業にとって目的ではなく、継続していく上での条件だとも述べ、企業の成果は顧客満足だと言っています。
さらに、市場(マーケット)は自然発生するものではなく「企業の顧客への働きかけ」によって、つまり顧客が今求めているものを企業が提供する、あるいは潜在ニーズを顕在化させる(有効需要に変える)ことで生まれるものだと言います。
つまり、企業は顧客を創造するためにマーケティングという機能を使いますが、それは顧客から利益を得るためではなく「顧客満足」を生むためだということ。
そして、利益とは顧客満足の結果であり、企業を継続していくには顧客満足を与え続けることだということです。

一見当たり前のことを述べているように思えますが、多くの中小企業がこの企業活動の定義とも言えるドラッカーの言葉を誤解し、間違った取り組みをしています。
ドラッカーが言う市場が創られるための「企業の顧客への働きかけ」とは、①顧客が求めるものを提供する ②潜在ニーズを顕在化させる の2点ですが、多くの中小企業ではほぼ①に集中し、なおかつ誤解しています。
それは、①顧客が求めるものを提供する、というのを「顧客が求めるものを売る」と解釈し、「売る」ことに集中しているところです。
これも一見すると同じことだと思えますが、「顧客が求めるもの」というのは具体的なもの、つまり企業の商品・サービスのことではありません。
なぜなら、もし「顧客が求めるもの」が企業の商品・サービスであるならば、市場を創るのは顧客であり、顧客は企業が創造しなくとも市場に存在することになります。
ドラッカーが述べている「企業の目的は顧客の創造」というのは、顧客は企業(の活動)によって創造されるということであり、「顧客が求めるものを提供する」というのは、顧客が求めているものは何かを掴み提供するということなのです。

これまでマーケティングは、販売に関係する全職能の遂行を意味するにすぎなかった。それではまだ販売である。われわれの製品からスタートしている。われわれの市場を探している。これに対し真のマーケティングは顧客からスタートする。すなわち現実、欲求、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」と言う。

(『マネジメント』第1章 企業の成果 2 企業とは何か)

ドラッカーが述べている「顧客は何を買いたいかを問う」というは、買いたいモノ(商品・サービス)は何かを問えと言っているのではありません。
むしろそのような解釈は企業目線であり自社の商品・サービスを売ることを優先しているとしています。
ドラッカーが述べているのは「ナゼ買いたいのか」つまり顧客は「何がしたいのか」あるいは「どうなりたいのか」といった顧客の「買う理由」を探せということなのです。

これらのことから、中小企業がマーケティングで成功するためには、自社よりも先ず顧客の立場で考えることを優先した思考=「マーケティング思考」が必要です。
冒頭で述べたように「顧客のことを考えている」としても、この「顧客の立場で考える」ことが欠落していると失敗するということです。